冬の鷹 (新潮文庫)
冬の鷹 (新潮文庫)
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吉村 昭
新潮社
売り上げランキング: 101,700

「冬の鷹」は、江戸時代に出版された「解体新書」に携わった者たちの話。「解体新書」が出版されるまでの苦労話は、「風雲児たち 4巻」で胸を打たれて以来、ぜひ活字で読みたいと思っていた。吉村昭に関しては、「漂流」を読んで以来、読み終わった時の静かな余韻が気に入り、最近はよく読んでいる。

「冬の鷹」を手に取ると、前野良沢と杉田玄白の対照的な性格や「ターヘルアナトミア」の翻訳作業の様子が、「風雲児たち」に書かれているエピソードとは違った印象を受けた。特に、前野良沢の能力を最大限に引き出そうとする杉田玄白の細かな気配りが印象に残る。亭主関白な良沢、女房役の玄白。プレーヤーの良沢、マネージャーの玄白。点の良沢、場の玄白。「解体新書」はそりの合わない二人による最高のプロジェクトチームだからこそ生まれた奇跡だ、と感じた。

「解体新書」を世に広めた後の後半は、良沢と玄白の半生が描かれている。

解体新書と共に世に広く名を広め、自身で設立した天真楼塾で多くの弟子に囲まれる玄白。弟子の入門を断り、蘭学の道を究めんと孤高の道を歩む良沢。この二人の半生は、共に「解体新書」という通過点を通ったとは思えないほど対照的なものだ。

最初は、頑なに己に閉じこもり将来の限りない可能性を潰してしまう良沢に苛立ちを覚えるが、平賀源内の死に様に対して放った良沢の言葉が心に焼き付いた。

人の死は、その人間がどのように生きたかをしめす結果だ。どのように死をむかえたかを見れば、その人間の生き方もわかる

この物語には良沢と玄白の他に平賀源内と高山彦九郎の最期が描かれている。良沢のこの言葉によって、この四人の生き様や死に様の彩りが鮮やかに感じた。

この物語は、「解体新書」が世に出るまでの紆余曲折も読み場だが、「解体新書」によって引き寄せられた良沢と玄白の対照的な生き様を存分に味わってもらいたい。